スキルベースで人材開発を考える
こんにちは、GovTech東京 人材育成グループの阿部です。私は民間企業でHR(人事)領域を中心にキャリアを積み、2024年6月にGovTech東京にジョインしました。
今回はHR(人事)領域で話題となっている”スキルベース組織”について、行政におけるデジタル人材開発の観点でどのようなことが考えられるかお伝えしたいと思います。
ジョブ型からスキルベースへ
昨今、生成AIなどテクノロジーの進化によって、環境やビジネスのやり方がどんどん変わっています。これまでの日本の組織のように終身雇用を前提にゼネラリスト型人材を育てる仕組みだけでは、変化に対応できる専門性を持った人材を確保するのが難しくなっているように思います。
そこで、職務(ジョブ)を基準にして人を処遇する「ジョブ型」という仕組みへ変更する動きが見られるようになりました。「ジョブ型」では勤務年数や年齢にとらわれずに処遇できるというメリットもありますが、テクノロジーの進化はジョブの内容自体も変化させてしまうということも課題となります。
そこで、スキルに基づいた人材戦略や制度が重要になるのではという「スキルベース」という考え方が話題になっています。
政治や経済などの各分野のグローバルリーダーが社会課題を議論する世界経済フォーラム(WEF)においても、より良い労働市場の構築に向けて2021年にスキル分類を発表(※1)し、2023年には学位・職歴・役職ではなく、個人のスキルと能力を重視する人材マネジメントとして「Skills first」という考え方が示され(※2)、グローバル規模でも重要視されています。
※1:WEF「Building a Common Language for Skills at Work A Global Taxonomy」2021年1月
※2:WEF「Putting Skills First: A Framework for Action」2023年5月
東京都のデジタル人材におけるスキル管理と活用
東京都ではデジタルの力で行政課題を解決するために「都政とICTをつなぐ職」として2021年にICT職の任用を開始し、ICT職がどのようなスキルをどのレベルで保有しているのかを可視化するデジタルスキルマップを運用しています。
デジタルスキルマップの詳細については、デジタルに関する学びやナレッジ、ノウハウを発信している東京デジタルアカデミーポータルサイトに掲載している以下コンテンツをご参照ください。
ICT職のスキル・レベルの可視化は既に運用が開始されており、各現場におけるスキルの需要調査も行いながら、教育施策の重点・優先テーマ策定の参考としています。
例えば、デジタルスキルマップにおけるジョブタイプ・スキル項目という観点では、現場の需要ポイントが高いジョブタイプ/スキル項目を中心に研修を企画・実施しています。
可視化されたスキルやレベルに対応して業務マッチングまで行えるようになるのが理想ですが、異動配置はさまざまな要素によって決定されるため、いかにスキル/レベルと業務をマッチングさせられるかが今後の課題です。
行政におけるスキルベースの可能性
行政の特徴を考えるとデジタル人材における「スキルベース」には大きく
3つの可能性があると考えています。
①人的資本投資の効率向上
行政の運営は税収で成り立っているため、人的資本に対する投資も最大限効果を生みだす効率性と根拠が必要です。特にデジタルスキルの分野は技術自体変化が激しく幅も広いため、やみくもに投資をしても効果が見えにくくなります。
スキルベースによって政策・事業ごとに求められるスキルを明確にし、現状とのGapから人材開発(採用や育成)や配置の施策を重点的に実施することで、個人のスキルアップが組織の政策・事業推進につながり、「行政サービス向上にむけたスキルアップへの投資である」とも説明しやすくなります。
②IT開発・改修の品質担保
行政のITシステム/サービスは住民の利便性にも大きく影響することから、外部へ開発や改修を委託する際に品質を担保することが重要です。
そのために、
・まず開発/改修委託の品質担保に求められるスキル要件を定義
・そのスキル要件を満たすかどうかを認定できる仕組みを構築
・認定者が開発/改修のマネジメントを担当できる
という流れでスキルのバラつきを抑えられれば、行政ITシステムの品質も担保しやすくなると考えられます。
③中長期的な育成
行政組織では年々変わる環境/政策にも対応できるよう、定期的なローテーションによってゼネラリストを育成する考え方があります。例えば、Webアプリ開発のプロジェクトに携わり始めても、すぐ異動で別の仕事に代わってしまうと専門性を深められず、またその経験も活かしにくくなる側面もあります。
それぞれの自治体にて中長期で政策・事業に求められるスキルを定義し、ローテーションにも考慮することによって今後の事業運営に必要な専門性を有する人材を育てることができ、職員本人も「伸ばした専門性を活かせる」という実感がモチベーションにつながり、より自立的な能力開発も可能となるのではないでしょうか。
上記3つの可能性はまさしく「言うは易く行うは難し」ですが、職員のモチベーション・やりがい、そして行政サービスの向上に向けてチャレンジしていきたいと思います。
いろいろと試行錯誤を重ねて、こちらのnoteでも取り組みを共有していきます!
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