利用者と提供者の視点から考える、都政DXに求められる"サービスデザイン"とは
GovTech東京は、東京都庁と都内62区市町村のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために2023年に設立されました。
東京都は行政サービスの質を高め、住民の暮らしの質を向上させることを目指しています。
そのために、都政のクオリティ向上を目標とし、都庁各局や都と連携する政策連携団体への技術支援を行っているのが都政DXグループです。
都政DXグループでは、東京都で実施している企画などの上流工程の支援や要件定義、プロジェクトの進捗管理を通じて、事業の成功に向けて強力にサポートをしています。日々の業務の中から見えてきた行政サービスの品質向上につながるノウハウやアイディアをnoteにて、連載形式でご紹介しています!
GovTech東京 都政DXグループの役割や目指す姿などについては、こちらの記事もご確認ください。
連載第4回は、「東京都サービスキャンバス」をテーマに展開していきます。
はじめまして、都政DXグループの志村裕大です!
GovTech東京には、団体が設立された2023年9月から出向しています。
東京都が推進するプロジェクトを都庁の外側から技術支援することで、より全体を俯瞰して課題解決ができる点にやりがいを感じています。
都政DXグループの業務の中心は、都庁内各局のデジタルサービスに対しての技術支援で、良い品質のデジタルサービスを都民に提供するために奮闘しています。
私は学生時代に人間の感性や感情を数値化して扱う「感性情報工学」と、ヒトとモノとの接点(インターフェース)を研究する「HCI(Human Computer Interaction)」を専攻し、利用者視点でサービスそのものだけでなく、サービスを通じて得られる体験全体を考える「サービスデザイン」を研究していました。
この専門的な経験を生かして各局への技術支援業務を行っていく中で、行政サービスに「サービスデザイン」の考え方を取り入れていくことが大きな課題だと感じています。
「サービスデザイン」って?
1. 利用者視点で考える
サービスデザインにおいて重要なポイントはサービスを利用者視点で考えることです。例えば、ゴミ出しのカレンダーを探す際に自治体のHPからすぐに見つけられるでしょうか?ブラウザで検索してもヒットしなかったり、HPの階層深くに配置されていたり、なかなか見つけられないこともあるかと思います。
これは情報を”公開する”ことが重視され、情報を”届ける”ことまで意識されていないことの表れでもあります。利用者を一番に考えられていないことが、この使いづらさを生じさせる原因です。
2. 利用者像を正しく理解する
また、利用者のことを一番に考えたサービスを作ったとしても、間違った利用者像を想定してしまうとサービスは使いづらくなります。
例えば、デート中のAさん、仕事帰りのBさんがいたとします。AさんもBさんもお腹がすいて食事がしたいと思っていますが、AさんとBさんは同じお店で同じものを食べたいと思うでしょうか。
Aさんはオシャレなレストランで雰囲気を大切にした食事を、Bさんは安くて量が多くてお酒の安いお店で仕事の疲れを吹き飛ばしたいと思うかもしれません。
「食事をする」と言っても、利用者の属性、背景や置かれている状況によって求める食事(サービス)は異なってきます。
このように利用者を深く理解し利用者を一番に考えてサービスを設計することが「サービスデザイン」であり、行政サービスではまだまだポテンシャルが高く、取り入れることでサービスを便利に変えることができる考え方です。
「東京都サービスキャンバス」
そこで東京都ではデジタルサービスにサービスデザインのプロセスを取り入れるため、その考え方や手順をまとめた、サービスデザインガイドラインを制定しています。
この中で紹介されている1つのフレームワークが「東京都サービスキャンバス」です。
東京都サービスキャンバスではサービスデザインのプロセスを経て得られた情報や導かれた情報を、利用者(都民)と提供者(東京都)の双方の視点で1枚に整理しながら事業の方向を定めていきます。
サービスキャンバスを事業の企画段階で作成することで、サービスキャンバス作成を通じた事業内容の適正性の検討を経て適切な施策を導くことができ、後工程(要件定義、委託時)の手戻りやコミュニケーションでの負担が減ります。
また、サービスキャンバスがあることで事業全体を俯瞰的に捉えることができるため、ステークホルダー全員の目線や焦点を統一させたり、根拠に基づいた報告・説明が出来たりします。
「東京都サービスキャンバス」ができたことによって、サービスデザインの考え方で利用者を意識したデジタルサービスが実現できるようになりました。しかし、まだまだサービスデザインの考え方は庁内に浸透しているとはいえる状態ではないため、サービスキャンバスこそ作成されてはいても、サービスデザインの考え方で必要な解像度で書かれているものはまだ少ないという実態があります。
サービスキャンバス普及のための取り組み
都政DXグループでは、都庁各局で作成されたサービスキャンバスのレビューについても取り組んでいます。サービスキャンバスを意義のある内容にアップデートするために、サービスキャンバスの説明、含めた方がよい観点を、担当者の方に気づいて理解してもらうための工夫を凝らしながら、丁寧にお伝えしています。
ですが、「時間が無い中でサービスキャンバスの作成の優先順位は低い」「そもそもサービスデザインガイドラインが難しく量も多いためなかなか全て読む気にならない」といった声もよく聞きます。
そこで私は両者の問題を解決するために、サービスキャンバスの実務的なメリットとサービスキャンバスを書く実務的なコツをまとめて、それを”体験”してもらうワークショップ形式の勉強会を実施しています。
この勉強会ではサービスデザインガイドラインでは触れられていない、より現場に即したサービスキャンバスのメリットと作成のコツを、座学に加えて参加者にその場で考えてもらうワークショップで”体験”することで自分のものとして身に着けてもらうことを目的としています。
また、参加者は実際にサービスキャンバス作成に直面している方々を想定しており、関係者のみで開催することで、参加者が今まさに困っている事業をテーマに勉強会を実施できます。これによって、勉強会中にテーマとしている事業のサービスキャンバスが作成できるため、時間的なロスも抑えることができます。
実際に庁内でこの勉強会を実施した結果、利用者のニーズを踏まえた具体的で解像度の高いサービスキャンバスを作成いただけました。
アンケート調査でも「勉強会で理解した内容をすぐに実践することで理解がより深まり、身についた気がする」といった感想もいただいており、とても小さい範囲ではありますが大きな効果があったと実感しています。
おわりに
サービスデザインにゴールはありません。利用者を意識して、利用者を理解して、ユーザーに寄り添うことで、サービスの品質は向上していきます。
私たちは東京都のサービスが少しでも都民の皆さんにとって使いやすいものとなるように、サービスデザインを浸透させる活動を引き続き行います。
小さな範囲への大きな効果が伝播し東京都全体を包み込むことを願って――
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