業務プロセス全体を根本から見直し、ゼロベースで再構築する「BPR」を成功させるためには?
GovTech東京は、東京都庁と都内62区市町村のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために2023年に設立されました。
東京都は行政サービスの質を高め、住民の暮らしの質を向上させることを目指しており、都政のクオリティ向上を目標に都庁各局と、都と連携する政策連携団体への技術支援を行っているのが都政DXグループです。
都政DXグループでは、主に、東京都で実施している企画などの上流工程の支援や要件定義、プロジェクトの進捗管理を通じて、事業の成功に向けて強力にサポートをしています。
日々の業務の中から見えてきた行政サービスの品質向上につながるノウハウやアイデアをnoteにて、連載形式でご紹介しています!
連載5本目は、慣例を疑い、必要なことをゼロベースで考えて再構築するための「BPR」をテーマに展開していきます。
はじめに
こんにちは!都政DXグループの皆川(みながわ)です。民間企業からGovTech東京にジョインし、「大陸が違う」くらいの変化と面白さを日々十二分に感じています。
さて、皆さん仕事をする中で以下のように思った経験はありませんか?
「なんでこんな面倒な手順が必要なんだろう...」
「もっと効率的にできるはずなのに...」
「昔からこうだから」と言われて諦めた
実はこういった疑問や不満は、組織や業界を問わず、多くの人が感じているものなんです。今日はそんな”昔からの慣例”を見直し、業務プロセスをゼロベースで再構築する「BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)」についてご紹介します。この記事は、組織の中で何かを変えたいと思っている人、自分の業務を楽にしたい人、そして行政サービスの改善に関心がある人に読んでいただきたいです。
BPRって何?業務改善とは何が違うの?
BPR(Business Process Reengineering)は「業務プロセスを根本から見直し再構築して劇的な改善を図る」という考えで、1990年にマサチューセッツ工科大学のマイケル・ハマー教授が提唱したと言われています。BPRと似た言葉で「業務改善」がありますが、大きな違いは実行する「規模」と「費用」です。
業務改善は「業務プロセスの一部を改善し業務効率化を目指す=改善」
BPRは「業務プロセス全体を根本から見直しゼロベースで再構築する=改革」です。
問合せ窓口を例に、業務改善とBPRの違いを整理すると、
FAQに誘導することで問合せの件数を減らした→業務改善
組織変更を行い、各部門で行っていた問合せ窓口を1か所に集約した→BPR
という違いがあります。
BPRで重要なことは「今までこうだったから」という思考を捨て、本当に必要なことは何かをゼロベースで考え抜くことです。
BPRあるある「現場の協力が得られない」
「BPRは難しい、大変だ」というお話をよく聞きます。BPRに関わった人の多くは苦労された経験があるかと思います。だからこそ成功事例は華々しく公開されます。
一方でその何が大変かというと、①人は変化を嫌う②やる側(経営層)とやられる側(現場)で摩擦が生じ、現場が混乱するの2つに尽きると思っています。
具体的な例をあげながら説明してみるので、自分だったらどうする?どうしたらよかった?を考えながら読んでいただければと思います。
<A社の例>
A社は行政を中心としたコールセンター運営を行っています。昨今の人手不足もあり、リソース効率化のため社長が「BPRをやろう!」と経営判断し、コンサルティング会社に委託しました。
担当となったBPRコンサルタントBさんは、まず現場にヒアリングを行い、標準化できる作業や非効率なフローを指摘し、改善案を社長に報告します。社長は「すぐやろう!」と即決し、Bさんを中心にしたBPRプロジェクトが開始されます。
Bさんは早速現場リーダーのRさんを呼び、業務フローやマニュアルの提出を依頼しました。しかし、案件単位でオペレーションが異なるため、業務フロー図や正式なマニュアルは用意しておらず、前任者からOJTで引き継ぎを行っています。困ったRさんはメンバーに「来週までに業務フローを纏めて!そして個人持ちの作業メモをマニュアルに纏めて!」と指示します。メンバーは残業して資料を用意します。
用意した資料をBさんに提出すると、様々な質問や指摘、改善案が返ってきました。前任者から引き継いだ作業にダメ出しされるメンバーはふつふつと不満が溜まっていきます。「こんな繁忙期に何?というかあなた誰?」みたいな心の声が口から漏れだします。
Rさんは何とか現場を動かそうとしますが、Rさん自身も「突然言われても無理、通常業務も回らない。。」と思っています。
Bさんも現場の空気が悪くなり、思うようにプロジェクトが進みません。
結果、全員が不幸な状態に陥り、プロジェクトは暗礁に乗り上げます。
BPRを成功させるためのポイント
A社での問題点は大きく2点あります。
1点目が社長の「すぐやろう!」です。判断自体は正しいのですが、正解は「現場に目的と意義を落とし込み、体制やスケジュールを整えてすぐやろう!」なのです。BPRにはトップダウンの決断が必要ですが、現場を置き去りにすることはNGです。現場に寄り添い、関係者に対してBPRの重要性や目的を丁寧に説明し、理解と賛同を得ておく必要があります。その上でどう進めていくかをステークホルダーと合意することが重要です。
2点目は「Bさんを中心にしたBPRプロジェクト」です。BさんはBPRのプロですが、あくまで部外者です。組織を変える、現場を変えるためには、組織内のメンバーをまとめ上げ、けん引していくリーダーが必要です。そのリーダーをプロジェクトの中心に置くのが成功の要因です。Bさんはリーダーのサポート役として立ち回ることで、現場からも受け入れやすくなり、プロジェクト全体を回しやすくなります。
BPRは技術的な改革だけでなく、「人の心」を動かす取り組みでもあります。特に行政組織では、長年の慣習や法規制との兼ね合いもあり、変革には多くの障壁があります。変革への不安や抵抗は自然なもの。それを理解した上で、粘り強くコミュニケーションを取り続けることが大切だと感じています。行政のBPRを支援する際に気を付ける点は以下だと考えています。
現場の声を聴く:実際に業務を行っている人の意見は貴重です。現場メンバーの知見と経験を尊重して活用しましょう。
段階的なアプローチ:一度に全てを変えようとせず、段階的に小さな成功を積み重ねていきましょう。
コミュニケーションの重視:なぜBPRが必要なのか、どんなメリットがあるのかを丁寧に説明しましょう。現場がメリットを感じないBPRは失敗の原因になります。
デジタル技術の適切な活用:新しい技術やツールを導入することがゴールではなく、目的に合った活用を心がけましょう。
効果を可視化する:成果を数値で示すことで効果がわかりやすくなり、さらに理解が得られやすくなります。
継続的な改善:BPRは改革のスタートラインです。1度で終わらず、継続的に見直しと改善を行いましょう。
BPRって結局どうやるの?
BPRは「本当にこの業務が必要なのか?」「誰のために、何のためにやっているのか?」という根本的な問いから始めます。BPRの手法はいくつかありますが、基本的なステップは以下の5ステップです。
各ステップにもいろいろなフレームワークがあり、4P分析、3C分析、SWOT分析、PEST分析、シックス・シグマ等があります。統計学や環境分析、データ分析が基になっており、目標に対してどのような打ち手を取れば効果的なのか、具体的に何をするべきなのかが整理できます。複数のフレームワークを組み合わせることで、より全体を俯瞰的に見ることもできます。シックスシグマは認定資格もありますので、BPRのプロを目指す方の目標にもいいですね。興味のある方はぜひ調べてみてください!
なぜ行政の仕事でBPRが必要なの?BPRで目指す未来とは?
また、行政の仕事でBPRが重要な理由は以下があげられます。
都民サービスの向上:より迅速で質の高いサービスを提供できます。
変化への対応:デジタル化により社会を取り巻く環境変化のスピードが非常に速くなっています。行政サービスも急速な社会変化に対し、迅速に対応する必要性が更に高まってきています。
リソースの有効活用:2040年には公務員は現在の半分程度になると言われています。その場合に、1人で今の2人分の仕事を抱えることになり、デジタル化以外にも業務工数削減が必須の課題となります。また、効率化を行うことで、今後さらに創造的な仕事に多くの時間を使えるようにします。
これらの理由から、行政サービスの改善にBPRは欠かせない考え方となっています。BPRは決して特別なことではなく、日常的なレポート作成や会議開催にも適用できる考えだと思います。「なぜ?」と疑問を持ったとき、何かが変わるタイミングがBPRのタイミングです。「当たり前」を疑い、本当に必要なことは何かを考え続ける。そんな姿勢が、大きな変革の第一歩になるかもしれません。
これからも私たち都政DXグループは、各現場の職員の方々と協力しながら、都政のクオリティ向上に努めていきます。
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