学童クラブ利用申請のオンライン化率100%! 「SUMIDA × DX展」で発表された自治体DXの成果とその裏側
墨田区は東京都と連携し、学童クラブに関する業務のDXで成果を出しています。このnoteでは、前半で「SUMIDA × DX展」で発表された事例をピックアップしてレポート。後半では学童クラブ業務のDXに着手した背景やきっかけ、プロジェクトの全体像について、墨田区 ICT推進担当の石村氏と子育て政策課の石井氏、GovTech東京 区市町村DXグループ長の田邊がふり返ります。
職員の自発的な提案と熱量で、「SUMIDA × DX展」を実現
2024年2月、すみだリバーサイドホールで開催された「SUMIDA × DX展」の様子をレポートします。本イベントは墨田区のICT推進担当がボトムアップで企画した試みで、墨田区役所職員のICTリテラシー向上やICT技術の利活用推進、デジタル活用に向けた機運醸成を目的に開催されました。
「2022年(令和4年)度から、毎年DX人材育成研修を半年ほどかけて実施しており、ICT推進に向けて庁内広報を強化したいという思いから、今回のイベントを企画しました。実は、このイベントのために用意された予算はゼロで、上長や庁内、企業を巻き込んでいき、なんとか開催にこぎつけることができました。」(石村氏)
当日開催された8つのセミナーの中から、「生成系AIの活用とガイドラインについて」「高齢者デジタルデバイド解消事業」「子育て支援課、業務改革始めました!」「学童クラブ業務のDX」の4つをピックアップしてご紹介します。
「生成系AIの活用とガイドラインについて」と題したセミナーでは、ICT推進担当の池田氏が登壇しました。セミナーでは生成系AIの活用方法や墨田区が定めたガイドライン、今後導入するシステムについての解説がありました。墨田区では現在、文章を生成するChatGPTのみを業務利用の対象としています。
「2月に自治体向けのシステムを導入し、普段使っているLGWAN環境でChatGPTを利用できるようにします。入力した情報をChatGPTに学習されないようになっているので安心して使用することができます。2月の全庁導入時に利用方法を周知し、eラーニングを受講した職員にアカウントを発行します」(池田氏)
「高齢者デジタルデバイド解消事業」と題したセミナーでは、高齢者福祉課の渡邊氏が登壇しました。東京都主催のTokyo区市町村DXaward2023優秀賞を受賞した本事業は、公民学の連携のお手本のようなケースです。
「高齢者のデジタルデバイドを防ぐ鍵はスマートフォンの利活用にあります。2022年(令和4年)度の墨田区の住民意識調査によると、スマホの保有率は70歳以上で6割を超えていますが、活用率は5割を下回っていました。本事業を開始した2021年(令和3年)度に実証実験を実施したところ、講座の実施だけではなくスマホの利活用の習慣化が必要なことが分かりました」(渡邊氏)
渡邊氏は自らスマホの利用習慣化を促すアプリを開発したスタートアップ企業を発掘し、事業に導入しました。アプリを使ってもらうために墨田区にあるiU(情報経営イノベーション専門職大学)と中学校、老人クラブを結びつけ世代間交流を生み出し、地域力を活用した施策を進めました。その結果、スマホ利活用の90日間継続率88%、満足度88%を達成し、テレビに取材されるなど注目を集めています。
続いてお伝えするのが子育て支援課の河合氏による「子育て支援課、業務改革始めました!」の発表です。2023年(令和5年)度から窓口改革のワーキンググループを立ち上げ、紙申請が多い子育て関連手続きのDXを推進しました。
「2023年(令和5年)度に子育て支援課に異動してすぐに『DXをやってほしい』と課長から指示を受けました。まずはワーキンググループを立ち上げ、7名で検討会を7回実施しました。そもそもDXとは何かという原点に立ち返って考えるところからスタートしました」(河合氏)
DXの目的を「住民サービスの向上」「職員の負担軽減」の2つに定めたといいます。
「業務改革を進めるために『順序立てて考える』『チームで行う』『スモールスタートを意識する』という3つを意識しながら進めました。結果として、他の自治体の先進事例を学べたり、予算をかけずにできることから始める実体験ができたり、若手職員の経験と成長につながるなど成果を出すことができました」(河合氏)
4つ目は、ICT推進担当の石村氏と子育て政策課の石井氏が取り組んだ「学童クラブ業務のDX」です。その取り組みのひとつである学童クラブ入会申請の電子化では、電子申請率100%を達成。そのポイントは、「原則として電子申請のみにしたこと」だといいます。
「3つの目標『利用者の利便性向上』『職員の業務効率化』『ペーパーレスの推進』を掲げて業務改善に取り組みました。そのために4本の柱『電子申請の導入』『指数計算ツールの導入』『RPAツールの導入』『制度・運用の見直し』を立てて実施しました」(石村氏)
「2023年(令和5年)度は約2,900件の申請があり、電子申請率は100%でした。一部、窓口や児童館で申請の支援を行いましたが、子育て世帯はスマホに慣れていることもあり電子申請の操作に関する問合せはほとんどありませんでした。23時以降に多くの申請が来ているのを見て、区民の方の利便性向上に役立てた実感を持てました。また学童クラブの職員からは『申請書の受付対応がなくなったので時間に余裕が生まれた』との意見をいただいています」(石井氏)
DXを推進したことによってペーパーレス化も実現し、約21,400枚の紙を削減できたといいます。
後半では「学童クラブ業務のDX」に取り組んだ石村氏と石井氏、そして伴走支援したGovTech東京の田邊がプロジェクトをふり返ります。
担当課に伴走しながらDXを推進。丁寧かつ入念な意見交換が成功の鍵
── 学童クラブ業務のDXに着手した背景について教えてください。
石村氏:学童クラブの担当課である子育て政策課の課題として、残業時間の削減がありました。ICT推進担当として電子化できる行政手続を増やしていきたいと考えていたところ、2022年(令和4年)度に東京都が伴走支援を実施するという話を聞き、申請したところ採択いただきました。
田邊:この墨田区の案件は、GovTech東京設立前の東京都で関わったプロジェクトです。学童クラブの担当課や現場は通常業務で多忙で、DXに取り組むのは難しいのが実情です。一方、住民目線では電子申請にニーズがあるため、墨田区の事例をモデル事例として各区市町村に共有し、都全体のデジタル化やBPRの推進に役立てたいという思いもありました。実際、墨田区の事例を参考に複数の自治体が学童クラブ業務のDXに取り組んでおり、GovTech東京ではそのサポートも行っています。
石村氏:外部の伴走支援を受けること自体が新しい取り組みでした。支援を受けるためには業務分析や計画立案が必要なため、通常業務のある中では腰が重くなってしまいます。今回申請できた一番大きな理由は、子育て政策課が前向きに取り組もうと手をあげてくれたことです。担当課が思いを持って動かないと、いくらICT推進担当が伴走すると言っても進みません。
── DXを推進する際のポイントは何だったのでしょうか?
石村氏:子育て政策課が学童クラブの現場の方々との調整を丁寧に進めていたことが印象に残っています。
石井氏:学童クラブの運営は複数の法人に委託しているため、運営方法や考え方に違いがあります。そのため、始める前から丁寧な説明や調整が必要だと覚悟していました。
石村氏:説明会を複数回実施したり、各学童クラブに足を運んだりしている様子を見ていました。
石井氏:現場と話し合う中で「電子化すると子どもの顔が見えなくなってしまう」など、電子化による弊害を懸念する声が出てきました。保護者や子どもたちと直接触れ合う現場の職員が思う課題は、こちらの視点とはまったく違うということを痛感しました。現場が大事にしていることとのギャップを埋めるのには苦労しましたが、必要不可欠なプロセスだったと思います。年度初めから現場に話をし始めて、10月に全体に対して正式に運用方法を伝えたので、理解を得るために半年ほどかけています。
田邊:私たちから見ると、墨田区はICT推進担当と担当課がしっかりとタッグを組んでいる印象があります。現場との意思疎通ができていないとDX、電子化は進みませんので、時間をかけて丁寧に調整されたことが成功の要因だと感じています。紙の申請から電子化100%にもっていくためには区民や区の職員への説明も相当されたのではないでしょうか。
石井氏:墨田区には65の学童クラブがあります。オンラインで全体に向けた説明をしつつ、活発に意見をくださる学童クラブの方からは個別にフィードバックをもらいながら進めました。
紙による手続きゼロを目指す
── これからの取組についても教えてください。
石井氏:実は年度途中の利用申請や夜間延長利用申請にはまだ対応できていないという課題があります。また、情報管理の観点から区で一元管理したために、区の職員の業務が増えてしまいました。その他にも、日本語がわからない外国人の方でも利用しやすいように、やさしい日本語を使った申請フォームをつくるなど、改善を進めていきたいと考えています。
さらに利用申請以外の手続も電子化したいです。早朝延長・夜間延長利用申請や辞退の手続等で紙による申請が残っているので、今後取り組みたいと考えています。そのためには学童クラブ側からもシステムを閲覧できるようにする等、より良い実施方法について、引続き検討したいと思います。
石村氏:現行システムの管理者画面にアクセスする際にはLGWANという自治体専用回線を利用しており、区役所内の特定の端末からのみアクセス可能となっているため、学童クラブ運営を委託している事業者は閲覧できません。そのため、子育て政策課の職員が必要なデータを抽出して各学童クラブに送っていて、大きな負担になっています。リアルタイムでの情報共有については課題として認識しており、翌年度に積み残している状況です。
田邊:LGWANの件は、すべての自治体に共通する課題です。セキュリティと効率化の観点から考えないといけないので、一緒に議論をしながら先に進めたいと考えています。
墨田区の事例を他の自治体へ展開
── これからのGovTech東京に期待することを、率直に教えてください。
石井氏:他の自治体から「DXをどうやって進めたのか教えてほしい」と問合せをいただきます。「SUMIDA × DX展」の当日も「今から話を聞かせてほしい」と言われ、急遽ヒアリングを受けました。本区でも、すべての課題を解決できているわけではなく、他自治体との課題感の共有は大事だと思っており、同じ業務を担当している身として、苦労も非常にわかります。
経験談等の共有は行っていきたいと思っていますが、業務都合で対応できないことも多いため、成功例やノウハウの共有という役割をぜひ、GovTech東京の皆さんに担っていただき、他の自治体の学童クラブ業務のDXを支援していただけたらと思っています。
石村氏:庁内DXを推進する私の立場で思うことは、職員の意欲が一番大切だということです。意欲さえあれば、技術的な支援を外部から受けたり、ICT推進担当等の情報部門が伴走したりすれば進みます。GovTech東京に期待したいのは、アドバイスだけではなく一緒に手を動かす形の支援です。その形があれば、日常業務で手いっぱいな担当課の人たちが「でも結局全部、自分たちでやらないといけないんでしょ」と後ろ向きにならずに済みます。一緒に手を動かしながら支援してくれるという話ができれば、担当課にアプローチしやすくなるので、実際に私自身も手を動かすようにしています。
田邊:手を動かす支援については、私たちも必要性を感じています。伴走サポートの方法についてGovTech東京内でも議論をしていて、自治体に個別のアプローチをして、手を動かすかたちも必要だと考えています。自治体のプロジェクトに入り自治体のみなさまと一緒に課題を解決し、その成果を他の自治体につなげていくというかたちもつくっていきたいと思っています。
※ 記載内容は2024年2月時点のものです