それなら、民間出身の私も世の中の役に立てる。“技術屋”がタッグを組んで挑み続ける区市町村DXの現在地
大手企業での長年の経験を活かし、新しく立ち上がる組織のカオスな環境で「世の中の役に立ちたい」とGovTech(ガブテック)東京に参画した瀬能 学。
前職で行政の仕事の幅広さと可能性に惹かれ、さらに「組織の壁を越えてDXを推進したい」と GovTech東京に移った藤田 武臣。
共に民間での豊富な経験を糧に、現在は区市町村DXに奔走する2人に、転職のきっかけと仕事のやりがい、醍醐味について聞きました。
東京のDXは、区市町村のDXから
──2023年9月から、官民が協働してDXを推進するプラットフォーム「一般財団法人GovTech東京」が事業を開始しました。最初にお二人が GovTech東京で担っている役割について教えてください。
瀬能:デジタルサービス本部・区市町村DXグループに所属し、区市町村のDXに取り組んでいます。東京のDX=区市町村のDXと考えており 、より住民の方々に近いところからDXを進めることが重要で、その“お手伝い”をすることが主な役割です。
実際に区市町村の現場に赴いてお困りの状況を聞き、それに対して私たちがお手伝いできることを探します。最初から「これをお願いしたい」という具体的な依頼や相談をいただくことは少ないので、対話を通じてGovTech東京の役割を見出していきます。
東京都に62ある区市町村の人口を見ていくと、百万人近いところから百数十人規模の自治体もあります。5,000倍ほどの開きがあるので当然、状況がそれぞれ違います。その一つひとつに寄り添ってサポートすることが私たちの仕事です。
藤田:私は、共同化グループに所属しています。自治体の意見やニーズを把握しながら、東京都と区市町村で共同調達できるツールを探したり、事業者選定、要件定義、自治体間の意見の調整、開発仕様の取りまとめなど多岐にわたる業務を担当しています。
公共のために尽くしたい。民間企業から東京都、そしてGovTech東京へ
──GovTech東京に入るまでのキャリアを教えてください。また、転職する際に考えていたことも教えてください。
瀬能:社会人歴は三十数年になります。新卒で大手電器メーカーに就職し、2022年9月まで勤務しました。半導体開発のエンジニアを皮切りに、インターネットや動画配信、ネット家電に関わり、ジョイント・ベンチャーの立ち上げにも参画しました。主に新規事業を担当し、最後は家電のEコマース事業で、フルフィルメントと言いますが、物流や課金、お客様サポートの責任者を担当していました。
2022年10月に東京都に転職しました。電器メーカーでは自分なりにいろいろなことをやり尽くしたという感覚があり、全く新しいことに挑戦したいと考えたからです。もうひとつは、年齢を重ねてきて、平たく言うと「世の中の役に立ちたい」、「公共のために尽くしたい」という気持ちが強くなったからです。
ちょうどその時に東京都のDXを推進するための募集があり、「カオスを楽しめる人を集めています」と書いてありました。これならば民間企業出身の私も世の中の役に立てると思ったことが転職のきっかけです。
そして、2023年9月にGovTech東京に転職しました。公務員として1年弱自治体のDXを進めてきましたが、より民間に近い立場・環境でDXを進めることも重要だと思いました。また、“新しいこと好き”なので組織がスタートするタイミングからジョインしたいという気持ちもありました。
──藤田さんのキャリアについても教えてください。
藤田:新卒で製薬会社に入り、システムの導入や運用開発、検証のルール作りなどを担当しました。その後、物流システムのコンサルティングの仕事を経てスタートアップに入り、内閣府のプロジェクトでマネージャーとして介護支援のシステム開発を担当しました。
そこでの仕事を通じて、行政の業務の幅広さや可能性の大きさに惹かれ、東京都に転職。デジタルサービス局で、瀬能と一緒に区市町村のサポートを担当しました。
GovTech東京に転職したのは、「自治体に属さない立場で、自由でやわらかい発想をすれば、組織の壁を乗り越えていける」と考えたからです。シームレスで先進的な組織に属して、より柔軟にDXを推進したいという思いがありました。
──おそらく、東京都からGovTech東京に転職したからこそできるようになったこともありますか?
藤田:GovTech東京に転職したことによる大きな変化は 、東京都も区市町村と同じ、DXを推進していく自治体の中のひとつとして接するようになったことです。両方の立場を経験してみて感じたのは、区市町村の方々は東京都として接するよりもフラットな関係を構築できて、GovTech東京の方が頼りやすいのではないかということです。
瀬能:藤田が話したように、GovTech東京にとっては東京都も支援先のひとつです。広域自治体である東京都と基礎自治体である区市町村という関係性とは違い、GovTech東京の場合は横から支援に入っていくイメージです。東京都と区市町村の連携をサポートしたり、ゆくゆくは区市町村どうしで連携してDXを自走していただくためのお手伝いをするのも私たちの役割だと思っています。
自治体の役割は法律で決まっているわけですが、私たちは技術屋集団として行政の決まりごとにあまり縛られず、本質的に、「DXを推進するために一番いいことは何か」を自由な発想をもとに進められるのが強みです。
区市町村のDXを、民間で培ったBPRで支援
──共同化グループの役割を教えてください。
藤田:区市町村のニーズを踏まえ、共同化に適したツールやシステムを導入・開発しています。各自治体には関心のあるテーマに手をあげてもらい、テーマ毎に立ち上げたワーキンググループで要望を募って調整し、必要とされるツールやシステムの要件・仕様を決定していきます。
私自身はエキスパートという立場で、東京都からの派遣職員としてGovTech東京に籍を置いているメンバーと一緒に各テーマのプロジェクトを推進しています。東京都以外の先行事例も調査し、ナレッジ共有をしながらテーマ毎の最善策を日々模索しています。解決すべき課題は多いのですが、その分やりがいがありますね。
──区市町村DXグループの役割を教えてください。
瀬能:区市町村のご担当者に寄り添い、伴走しながら“お困りごと”を解決するサポートをしています。BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の手法で現在の業務内容を洗い直し、「業務の効率化」と「住民の方々の利便性」を追求しています。区市町村の様々な業務を、デジタルツールで組み替え効率化するためにテーマを定め、区市町村の方と一緒に取り組んでいます。
区市町村からのDXにまつわるご相談ごとも『スポット相談』という形で都度受け付けています。例えばセキュリティ確保について相談があればGovTech東京にいる専門家を交えて、知恵を絞って対応しています。
国の施策である、自治体情報システムの標準化・共通化について、区市町村をサポートしているチームもあります。他にも、東京都で進めてきたテーマを他の自治体に展開しています。横展開と呼んでいて、その中のひとつに施設予約システムの導入支援があります。
自治体ごとにバラバラな施設予約管理システムから、区市町村DXに切り込む
──GovTech東京で進めている「施設予約管理システムの改善プロジェクト」について教えてください。
藤田:私が東京都のデジタルサービス局で区市町村のサポートをしていた頃に遡ります。行政手続デジタル化事業で、施設予約管理システムのBPR支援をしていたことがきっかけです。複数の自治体にヒアリングをしたところ、共通の課題が見えてきました。同じ自治体の中でも管理する施設毎にそれぞれ異なる予約管理システムを導入していて、中には大きなコストをかけてカスタマイズしたシステムを複数導入している自治体もありました。そこで、ひとつの自治体でロールモデルとなる仕組みをつくり、そこで導入したシステムを自治体間で横展開したことが今につながっています。現在はGovTech東京の共同化グループで施設管理予約システムの共同調達を担い、全自治体に意見を聞き、仕様を検討している段階です。
瀬能:公共施設の予約管理はすべての自治体に必要な業務です。繰り返しになりますが、それが今はバラバラのシステムで運用されているケースが多いのです。高額を投じてガチガチに作り込んだシステムを利用している自治体もあれば、箱に応募ハガキを投函してもらい、それを自治体職員が手作業で抽選し、紙で管理しているところもあります。この現状をDXによって効率化していくために、藤田が共同調達の役割を担い、私がBPRの手法で自治体を支援するという役割分担で進めています。各自治体の施設管理業務を洗い直してより効率的な業務の進め方を自治体の方と一緒につくり、東京都のデジタルサービス局とも連携しながら支援に取り組んでいます。
意識しているのはやはり「自治体の業務効率化」と「住民の利便性」の両立です。住民からすれば、施設利用のために何度も役所に足を運ぶのはナンセンスですよね。そこで、例えば予約機能だけでなくキャッシュレス決済の仕組みもセットで導入することで、住民の満足度向上を図るなど、最適なUX(ユーザー・エクスペリエンス)を追求していけるよう取り組んでいます。
──プロジェクトを進めていく上で苦労されていることも?
瀬能:施設予約管理の対象は、グラウンドや体育館、文化施設、公民館など多岐にわたります。その結果、自治体内での担当部署も異なります。それぞれの部署が、それぞれ別の仕組み・システムを導入していることもあるため、伴走しながら状況把握しつつ、上手くバランスを取りながら支援・変革していくことが重要です。
また、DXを進めるにあたり業務プロセスを変更する際には、現場に一時的な負担がかかります。現場の職員からすると、それまでのやり方で困っているわけでもないので、変える必要性もなかなか感じられないでしょう。しかも慣れない業務ということもあり、忙しくなってしまう。それでも今後、公務員の人数が減少していくことや住民の利便性向上を考え、みながハッピーになる方法を模索することが難しさでもありやりがいでもあります。
藤田:これまでは各自治体が自分たちのルールや手順に合わせてシステムを導入したり、カスタマイズすることが主流でした。しかしそれを続けていると莫大な費用が発生し、いわゆるベンダーロックインの状態になる場合もあり、より良いSaaSやシステムがあっても選べなくなってしまいます。当然、住民の利便性も向上しません。
つまり、これまでのやり方を見直さないといけない時期にきているわけです。システムに合わせて自治体のルールや手順を変えることも考えなければいけません。しかし自治体職員は戸惑います。その心理的抵抗に対するサポート、向き合い方が私たちの課題とも言えると思います。
──施設管理予約システム改善プロジェクトの現在地、実態についても教えてください。
藤田:例えば、異なる施設管理予約システムを複数導入している自治体もありました。話を聞いてみると、所管の部署が違い、それぞれ考え方やルール、運営方法が違うわけです。住民からすると複数の異なるシステムを使い分ける必要があると戸惑ってしまいますし、面倒さに嫌気がさして利用自体を諦めてしまう人もいらっしゃるかもしれません。ですので、自治体の方たちの考え方から変えていただく必要がありました。その自治体にはシステムとツールを提案し、現在BPRをしている段階です。この試験運用を経て上手くいけば、システムを一本化する方向で検討されています。
瀬能:複数の独自システムを抱えていると、その分大きな費用が発生します。しかし、区市町村の中だけでなんとかしようと試みるも適切な解決方法が見つけられず、カスタマイズ対応をして、さらに追加費用が発生する方向に進んでしまう場合もあります。そこにGovTech東京がサポートに入ることによって、民間での経験も活かしながら「技術屋から見て最適な方法」をご提案できるよう努めています。
藤田:数多くある区市町村の中には、DXのために必要な知識を持つ職員が1人もいらっしゃらないという自治体もあるので、足を運びながら個々にフォローするなど泥くさく進めています。各自治体にはそれぞれの個別事情もあったりするので、様々な要望をいただきながら粘り強く対話を重ねて、よりよい形を模索しています。
瀬能:本当に困っておられることや、最適な解決方法は現場に行かないと見えてきません。BPRでも足を運び、窓口やバックヤードで紙の書類を見ながらパソコンでデータ入力をしている方々とお話します。最初は「DXなんてやっている暇はない」とおっしゃっていた方に、普段の仕事を見せていただきながら改善提案をしてDXが実現すると、「大変そうだったけど、やってみたら案外うまくいきました」という声が聞けることもあります。うれしいですし、やりがいを感じる瞬間ですね。
小規模自治体である「島」の課題解決
──今後、特に取り組んでいきたいことはありますか?
藤田:私は共同化をより強力に推進していきたいです。自治体のニーズを丁寧にかき集めながら、本当に適したシステムを選んでいきたいです。もちろん、できるだけ各自治体が導入しやすい価格で。生成AIなど新しい技術も出てきていますので、セキュリティ面の課題を解決しながら、臨機応変に検討・導入していくことも大切だと考えています。
瀬能:大都会のイメージが強い東京都ですが、人口160人程度の島もあります。そういった自治体は人手が足りないケースが多く、自治体としての通常業務だけで手一杯なので、デジタル化しましょうとお伝えしても「目の前の仕事を回すのに精一杯なのにどうやって?」となってしまいます。そのようなケースでこそ、私たちGovTech東京がデジタルツールの導入・利活用を支援することで、まず目の前のことを解決する手助けをしたいと考えています。小規模自治体の課題解決が私個人のテーマのひとつです。
※ 記載内容は2024年1月時点のものです
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