エンジニア組織づくりのエキスパートが、行政・自治体DXに挑む理由
こんにちは。
GovTech(ガブテック)東京の広報担当です。
GovTech東京は、東京都が2023年7月に設立し、9月に事業を開始した一般財団法人です。
“情報技術で行政の今を変える、首都の未来を変える“というビジョンを掲げ、官民が協働し東京都と62の区市町村のDXを推進するプラットフォームの役割を担っています。 また、都内62区市町村はもちろんのこと“首都・東京”として国や全国1,700以上の自治体への貢献も目指しています。
9月の事業開始から3か月が経ち、外部の方からGovTech東京はどんな人が働いているの?どんな仕事をしているの?どんな雰囲気の会社なの?と聞いていただける機会も少しずつ増えてきました。
GovTech東京には、様々な経歴を持った個性あふれる職員が集まっており、それぞれのスキルや経験を融合させて、オープン&フラットに意見を交え、都庁や区市町村DXの業務に携わっています。
このnoteでは、GovTech東京の「人」「組織」「働きがい」「カルチャー」などに焦点を当てながら、行政側と民間を行き来するキャリアやプロジェクトのこぼれ話など、「オープン&フラット」にお届けしていきます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
最初のコンテンツとなる今回は、民間から東京都に転職し、さらにGovTech東京に転職した杉井正克のインタビューです。
官民を自由に行き来する「リボルビングドア」を実践する杉井に、GovTech東京の仕事のリアルややりがい、キャリアの考え方について聞きました。
IT企業を渡り歩き、最先端の現場を知り尽くす
──2023年9月から、官民が協働してDXを推進するプラットフォーム「一般財団法人GovTech東京」が事業を開始しました。最初に、杉井さんがGovTech東京で担っている役割を教えてください。
私は、テクノロジー本部 テクニカルグループで、区市町村と東京都各局のDXの支援をしています。
総務省・デジタル庁が推進する「自治体情報システムの標準化・共通化」事業において、区市町村の方々に向けてクラウド関連の技術支援を行っています。また東京都の島しょ地域のDXや業務効率化の支援も進めています。各局向けにはソフトウェアの開発手法のひとつであるアジャイル開発の導入を支援しています。
──杉井さんは民間企業から東京都、そしてGovTech東京というキャリアを歩まれています。これまでのキャリアについて、詳しく教えてください。
2000年に社会人になり、最初はプログラマーとして2,000人規模の二次請けのSIer(システムインテグレーター)の会社に入りました。そこで大規模Webサービスの担当になり、プログラマーとしてイチから学ぶことができました。6年間でバックエンドのデータベース設計やチューニング、Webアプリケーションの設計、フロント(HTML/JavaScript/CSS)、セキュリティや運用など、ひと通りのことを身につけられたと思います。
プログラムや設計ができるようになり、お客様と会話しながら開発を進めていく力はつきました。そこで次のキャリアとして考えたのが、プロジェクトマネジメントの力をつけることです。お客様先に常駐するエンジニアという立場では踏み込みにくい、ビジネス上必要な契約やお金にまつわる仕事ができる環境を求めて転職しました。
転職先ではプロジェクトマネージャーとして働き、30歳過ぎで管理職になりました。大きな企業グループに属するベンチャー企業でしたが、合併などもあり10年の間に30人規模から1,000人規模まで組織が成長しました。そこでは管理職教育も受け、大規模組織のマネジメントノウハウや予算管理について学ぶことができました。
──スタートアップに飛び込まれた経験もあるとお聞きしました。
新しい技術に触れたい気持ちが高まり、スタートアップに転職しました。
当時はスマートフォンアプリが出始め、市場が拡大している時期でした。クラウドの活用も本格化していて、様々な新しい経験ができました。その会社では自社サービス事業と受託開発事業があり、最終的には両方のエンジニア組織の責任者を任され、評価制度の再構築や人材採用にも自ら着手していました。
都庁に入る直前はクラスメソッド株式会社で働いていました。クラスメソッドでは開発の仕事をしながら、組織開発やチームビルディングのコンサルタントを兼務していました。振り返ってみると、内製化支援コーチ、エンジニア組織のコンサルティングの仕事は、GovTech東京での仕事にもつながっていますね。
民間から東京都、そしてGovTech東京へ。自治体DX支援で社会貢献できる喜び
──民間から、行政である東京都に転職したきっかけを教えてください。
新卒でプログラマーをやっていた時から「エンジニアが働く開発現場をもっと良くしたい」という気持ちを持って活動してきたので、クラスメソッドでの組織開発の仕事にはやりがいを感じていました。
そのまま続けるのもおもしろいとは思っていたのですが、ふと一度「まったく別のことをやってみるのも経験としてありかな」と考えるタイミングがありました。ちょうどその時に東京都がDX人材を募集していたんです。ちょっと寄り道をしてみようと。
行政側の立場で今までとは異なる経験をし、また民間に戻る道もあるので、あまり深く考えずに勢いで転職したというのが正直なところです。それまでは行政の仕事に興味を持ったことは一度もなかったので、違う分野のひとつというくらいの認識でした。
ただ今まで非ITとされてきた分野にもITが必須になっていく中で、エンジニアの組織や文化、システムを作る土壌を広げていきたいという思いは持ち続けていました。幅広く見れば行政も非IT分野のひとつなので、興味を持ったということかもしれません。
──杉井さんの視点から、行政の仕事のおもしろさはどういったところにあると思いますか?
東京都庁の採用面接の際に、応募要項を読んだだけでは仕事のイメージがわかなかったので、「適切な場所にアサインしてください」とお願いをしていました。
実際に仕事をし始めると、やった分だけ社会貢献になるという実感を強く持つようになりました。民間企業での仕事は他社との競争になるわけですが、自治体同士は全員が仲間となります。ひとつの事例を自分たちだけの成果にするのではなく、他の自治体に共有することでさらなる社会貢献につながる喜びを感じます。自治体は全国に1,741ありレバレッジがきくので、そういう意味でも充実感がありますし、やりがいを感じます。
──東京都からGovTech東京に移られた理由を教えてください。
GovTech東京はDXを推進する役割に特化した新しい組織で、そこに移ることは自分としてもより大きなチャレンジだと思い、挑戦することにしました。
──GovTech東京は、東京都の外郭団体という位置付けなので、異動ではなく転職になるわけですね。やはりGovTech東京だからできること、取り組みやすいことがあるのでしょうか?
GovTech東京というデジタル専門組織が立ち上がったことで、デジタル人材の幅と厚みが増し、より技術に寄せた組織づくりや価値提供ができるようになると思います。自治体のDX進めるための最適な体制を、これからさらに整えていきます。
また、働き方の自由度が増したことも大きな違いです。都庁でもテレワークは可能でしたが、GovTech東京ではフレックス制度なども利用できるのでより働きやすい環境になり、子育て世代としては助かっています。
東京都にアジャイル開発を導入。小規模自治体のサポートも推進
──テクニカルグループにはどのようなメンバーがいますか?
さまざまなバックグラウンドを持ち、それぞれ異なる強みを持つメンバーが集まっているので刺激があります。グループ長の亀山さんはエンジニア出身でコードも書けて、オールマイティに何でもできるタイプ。私も彼に近いタイプです。他には外資系企業含め複数社を渡り歩いて来たWebディレクター、大手企業でUI/UXを担っていたデザイナー、エンジニアもできるマーケターもいます。定例会議で気になる技術についてディスカッションする時間がありますが、みなそれぞれ違う視点を持っていておもしろいですね。
──ご自身の経験やスキルが活かされたと感じたエピソードがあれば教えてください。
東京都在職時から携わっている、アジャイル開発を東京都の各局に導入・推進していくプロジェクトです。東京都はこれまでウォーターフォール型のシステム開発しかやってこなかったのですが、アジャイル開発も選択肢のひとつにできた方がいいという発想で試験導入を始めました。
2022年に4つの局でアジャイル開発を導入したところ、「やりがいがあって楽しい。やってよかった!」という声をいただくことができました。他にもアジャイル開発の事例集のような「プレイブック」を作成し都庁内で公開したところ大きな反響があるなど、少しずつ成果を生み出しています。
──アジャイル開発の伝道師のような役割を果たされているわけですね。
仕様書を書いて発注して、完成するのが1年後という仕事をしてきた方は1、2週間という短期間でちょっとした機能ができることに驚かれていました。「こんなに早くできるんですか」と。そして改善のリクエストをすると、次の週には改善版ができあがってくる。そうすると自分も一緒に作った感覚を強く持てることもあり、「使い勝手のいいものがちゃんとできあがってくるので、アジャイル開発はいいですね!」という声をいただいています。
──逆に、課題はありますか?
デジタル化と一言で言っても、区市町村によって少しずつ事情が違うので、同じシステムを機械的に一律導入することはできません。例えばテレワークの仕組みを導入する場合、東京都庁で採用している仕組みやツールが、小規模な自治体では参考にならなかったり、使いづらかったりします。
そこで私たちが行うのは、状況の近い自治体の事例を紹介することです。その際に大切なのが、ただ窓口を設けておくのではなく、気軽に聞いてもらえる関係性をつくることです。私たちは自治体の課題を解決するのが仕事ですが、そもそも抱えている課題が何なのかを教えてもらわないと何も始まりません。私は民間から来たばかりで行政の仕事やその進め方をまだよく知らないので、すぐには分からないこともあります。そのため行政に詳しい東京都デジタルサービス局の職員と一緒に訪問し、直接顔を合わせながらものごとを進めるようにしています。これはDX推進と逆の動き方かもしれませんが、オンラインでいいと言われてもあえて会いに行くことも多いです。
GovTech東京のエンジニア組織を確立し、開発現場を改善し続けていきたい
──今後実現したいことを教えてください。
私が持ち続けているテーマである、開発の現場をもっと良くしていくこと。これをGovTech東京で実現したいです。行政で仕事をするようになって、島しょ地域や多摩地域の比較的小規模な自治体の現場に訪問し、それぞれの現場で意欲を持って頑張っている方がたくさんいらっしゃるということがよく分かりました。組織づくりを含めてDXを推進し、自治体職員の方々の奮闘に貢献したいです。
そのためにもGovTech東京のエンジニア組織を確立していくことが重要なミッションとなります。GovTech東京の取組みはチャレンジングなことだと思うので、自治体の方々に成果をシェアしながら、今後日本全国で生まれてくる動きの後押しをしていきたいです。
──杉井さんのキャリアだとおそらく企業からも引く手あまたで、起業含め多くの選択肢があるのではないかと思います。その中でGovTech東京を選ばれた理由があれば聞いてみたいです。
私は例えば起業して一人でゼロから何かをはじめるよりも、仲間と一緒に影響力の大きな組織で仕事をすることに喜びを感じるタイプなんです。GovTech東京は予算規模や人材面で成果を出しやすい、世の中に対する影響力や社会貢献度が大きい場所だと感じていて、ここで働くことに魅力を感じています。
GovTech東京にエキスパートとして入ってきている人たちは多様なバックグラウンドとスキルを持っているので、一緒に働いていて楽しいですね。ディスカッションしていても、自分にはない視点や知見を持っている方ばかりなので刺激的です。
「リボルビングドア」に不安なし。民間では得られないスキルや経験値が得られる環境
──官民を行き来する「リボルビングドア」の実践者である杉井さんですが、初めて官側に行く際に不安はありませんでしたか?
採用の応募者の方からよく聞かれます。「5年の任期が終わった後の不安はありませんか?」と。友人からも言われます(笑)。周りからは不安定に見えるのかもしれませんね。
自分自身は常に新しいことにチャレンジしていることで、スキルや経験値が急角度で上がっている実感があるので、不安を感じたことはまったくありません。これを5年間続けて、自分の市場価値が下がるとは思えない。同僚も同じことをよく言っています。もちろん職務経歴書に書けますし、経験としても語れるのでぜひ多くの人のキャリアの選択肢のひとつとして検討してみてほしいです。
私自身は5年後の行き先まではさすがに考えていませんが、理事長の宮坂は「将来は全国の自治体のCIO、CIO補佐官になってほしい」という話をよくしています。せっかく5年も行政の経験を積むので、キャリアとしては有意義な選択肢のひとつだと感じます。もちろん民間に戻って活躍することもできるので、GovTech東京で働いていて将来に不安を感じている人はいないのではないでしょうか。
──GovTech東京には、どういう人が向いていると思いますか?
「これしかやりたくない」というものがあるよりも、ビジョンや大きな目標に向かってありとあらゆる課題解決に取り組める人、そういう役割を楽しめる方が向いていると思います。自分の軸足となるものは大事にしつつ、いろいろな課題と向き合い、多くの人をサポートできるタイプがマッチするのではないでしょうか。課題に優先順位をつけながら自分の専門性を活かしていける方は、楽しく仕事ができる環境です。組織が拡大していけばより専門領域に特化した人も必要になってくると思いますが、今は「何でも任せてください!」というマインドの方にとって居心地が良い環境だと感じます。
現在は東京都と区市町村に関わる仕事がメインですが、スケールが大きく社会貢献性の高い仕事なのでやりがいは大きいです。日本全国の自治体にも貢献していける可能性を秘めた組織でもあります。最初は自分自身の可能性を限定せずに、私のようにまずはアサインされたところで力を発揮するというスタンスだと経験を積みやすいと思います。
──エキスパート集団のようなイメージがありますが、若手でも活躍できますか?
もちろん募集ポジションにもよりますが、チームでお互いに足りないところを補い合いながら仕事をしているので、心配はいりません。若手が仕事を通じて成長できる環境を作ることにも取り組んでいこうと考えています。
──最後に、区市町村及び東京都各局のDX推進担当の方へのメッセージをお願いします。
現場の皆さまが実現したいことをデジタルでサポートすることが私たちの仕事です。私たちをうまく使ってほしいと思っているので、そのためにできることは何なのかをいつも考えています。東京都庁だけではなく、区市町村を含めた東京全体のDXを進め、得られたナレッジを全国にも広げていきたいと考えています。
※ 記載内容は2023年12月時点のものです