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GovTech東京で世界一をめざす──日本流DXで創る新しい価値

2023年9月に事業開始した、官民が協働してDXを推進するプラットフォーム「一般財団法人GovTech(ガブテック)東京」に、業務執行理事として就任した各務 茂雄。民間企業でDXに取り組んできた経験を活かし、「東京ならではの世界一をめざしたい」と話す各務が、GovTech東京にかける想いを語ります。

※このnoteは、2023年7月にtalentbookで公開したものを、一部編集・更新して掲載しています。


売上50倍の“ど真ん中”を経験したことで、ビジネスの構造を知る

──各務さんは、2023年9月に始動した一般財団法人GovTech東京の業務執行理事に就任しました。まずは、各務さんが現在関わっている仕事、これまでのキャリアを簡単に教えてください。

現在は、三菱UFJ銀行のCDTO(Chief Digital Transformation Officer)補佐、そしてデジタルサービス企画部の部長として、DXを推進しています。また、情報経営イノベーション専門職大学の准教授として、ビジネスフィールドリサーチなどの科目を担当しています。

最初の就職先は日本企業で、プログラマーから始まりました。27歳で外資系企業に転職するのですが、きっかけは、三浦知良さんの『足に魂こめました』という本を読んだことです。ちょうど日本企業特有の文化などに課題を感じていたころで、「カズは中学生のときに単身ブラジルに渡ったのに、俺は何をしているんだ」と奮起したんです。

そこからは、EMC Corporation、VMware、Microsoft、Amazon Web Serviceと、主に外資系企業でプロダクトマネージャーや事業の立ち上げなどを経験しました。

──その後、KADOKAWAグループに参画されるんですね。

そうですね。まずは、子会社であるドワンゴで、ニコニコ動画の再生に取り組みました。事業が黒字化したことをきっかけに、親会社であるKADOKAWAに執行役員として参画し、大型複合施設「ところざわサクラタウン」のオープンやDX推進を担当しました。KADOKAWAでは、DXに特化したKADOKAWA Connectedを代表取締役社長として起業したことも大きな経験です。

──さまざまな経験をお持ちですが、とくに印象に残っていること、キャリアに影響を与えた出来事はありますか?

一つ挙げるとすると、VMwareでの経験でしょうか。サーバーの仮想化という技術の立ち上げメンバーとして7年ほど在籍したのですが、その間に日本での売上が50倍になりました。急成長するプロジェクトの真ん中で、マーケットの開拓から人材育成、プロダクトマネージャーまでさまざまな役割を担っていたので、ビジネスの構造を経験できたことが大きな財産です。

そして、そういった経験を活かせるのがDXだと気づき、その後はDX推進を担うキャリアに舵を切り、現在につながります。

1位にならないと見えないものがある──日本ならではのDXで世界一を狙う

──これまで民間企業でDX推進の舵取りをされてきました。今回、GovTech東京に参画しようと決めた理由を教えてください。

一番の決め手は、「東京なら世界一をめざせる」と思ったことです。基本的に私は、「1位にならないと見えないものがある」と思っていて、1位を狙って取り組むことで人が育つと考えています。

では、なぜ東京は世界一をめざせるかというと、そもそも首都という点において、日本で唯一ですよね。そして、日本にはアナログや人間味という日本的な良い文化があると思います。だから、DXの本来の目的である、アナログやリアルの価値を最大化するために必要な“デジタルとアナログをバランス良く融合させたDX”という観点で、日本は世界一を狙え、その首都である東京はそのど真ん中にいるのではないかと考えました。

私は、外資系企業でも日本企業でも働いていたので、日本の良さもよく理解しています。その日本の良さをもっと可視化して、そこにデジタル技術をミックスするということに、私の経験がフルに活かせるのではないかと感じたんです。

──日本の良さというのは、具体的にどういった部分ですか?

日本人は、とても個性があるんですね。個性を全面に出しているわけではありませんが、内々に自分の好きなものを持っていて、実は、すごく多様性を秘めています。それは、アニメやキャラクターといったエンターテインメントが良い例です。だけど、気質としてまとまりや柔軟性があるので、その上で個性を伸ばすことができるのが、日本の良さであり強みです。

──各務さんは、「日本流DX」を提唱していますが、これは、日本の良さを活かしたDXということでしょうか?

デジタル技術というのは、構造的に物事を進めて、トップダウンで実行するという仕組みに向いています。日本人は構造的に考えられたトップダウンが苦手で、ボトムアップをある程度得意としています。

つまり、トップがDXを進めることをとりあえず決めて、経営リソースさえ確保し、現場の意見を尊重し、縦割り組織を横串でつなげるチームに徹底的に権限委譲をすると、まとまりや柔軟性という日本の良さを活かしたDXができます。前職や現職でも、その良さを活かす方法は有効だということを確認できました。

ただ、DXを進める上で重要なのは、「程よい線を見つけること」です。個性という縦割りは残しつつ、「ここまでは合理化しましょう」という横串の線引きをするんです。この設計を雑にしてしまうとうまくいかないので、DXのX(変革)をする相手のリスク許容度に合わせたパターンを作って、前に進めることが大切です。

ノウハウをオープンにし、実装・実行に価値をおいたエコシステムを作る

──民間での経験を活かし、これから行政のDXを推進していく立場になりますが、今の時点で見えている行政DXの課題はありますか?

人事異動が定期にあることで、ノウハウが蓄積しにくいという点です。システムは、一度作って終わりではなく、長期的に使うものですが、担当者が頻繁に変わるとユーザー側にはノウハウが溜まらず、ベンダー側にノウハウが溜まっていくという現象が起きます。

すると、ユーザー側の力が弱まって、システム改修する際の要件定義などの指示ができなくなり、改善されなくなってしまうんです。その結果、ユーザーが要件を決められないから“ゆるふわ”でシステムを作らざるを得ないという悪影響が、ベンダー側にも起きます。つまり、Lose&Loseです。

このような状況になると「良くしよう」というモチベーションが起きないので、課題があるままでも使い続けてしまい、さらにモチベーションが下がるという悪循環になってしまいます。

──GovTech東京が始動したことで、そういった課題の改善にもつながるのでしょうか?

そうですね。DXに特化した組織が行政の外部にできることで、継続的な運用・改善が可能になります。そこもGovTech東京を作る一つの意味です。

また、ノウハウを蓄積する仕組みとして、「文字化」することも重要です。エンジニアには、自分の仕事をログとして残す文化があるのですが、これは引き継ぎの際にとても有効です。私も実際、ドワンゴで改革をするときに、過去5〜6年のログを読み込んだことで、約1カ月で再生計画を立てることができました。

サービスを構築するときには、企画・設計・開発・運用という4つのプロセスがありますが、企画と設計・開発と運用がつながっていないというケースが起こりやすいんですね。そのバトンゾーンをきちんとつなげるという意味でも、文字化はポイントです。もちろん、文字化することで、ノウハウを世代間でつなぐことも可能になります。

行政は文書文化が根付いているのですが、それを効率的に運用できていない面があると感じていているので、民間企業の文化を取り入れていくことも、GovTech東京がもたらす改革の一つになると思います。

──同じく業務執行理事の畑中 洋亮さんは、GovTech東京によって行政の経営基盤が構築できるとお話しされていました。各務さんは、GovTech東京が機能することでどのような価値が提供できると考えていますか?

私は、「事例ができること」が大きな価値になると考えています。事例といっても、表面的なものではなくて、内部の詳細まで含めたものです。ノウハウの論理的な部分だけを理解できても、実際に動くことにつながらず、意思と行動の間に隙間ができてしまいます。実装・実行することって、難しいんですね。

ですから、実装・実行までの隙間を埋めるための具体的なノウハウも含めた事例を公開していきたいと考えています。これまでは、作るということの価値が高かったと思うのですが、実装・実行に価値を生み出すエコシステムができると、業界のルールが変わり、マーケットも活性化するはずです。

過去の自分に挑戦状を──「自分 アズ・ア・サービス」のマインドで成長する

──理事長の宮坂 学さんが、GovTech東京の組織作りのキーワードに「オープン&フラット」を挙げていました。各務さんの考える「オープン&フラット」は、どのような組織でしょうか?

私は、「肩書きはただの役割で、そもそも全員が平等である」ということを原点にしています。人生は役割分担なんです。誰しもが、職場や家庭で、自分が何を担うべきかという役割を演じていますよね。たとえば、私は社長という役割を経験していますが、社長って一番の雑用係で、全然偉くないんです。

つまり、全員が対等で、得意な人が得意な役割を担えば良いということです。得意なことがハッキリしているなら自分で主張して伸ばすこともできるし、メンバーの得意なことを見つけるのが上司の役割です。それが個々のキャリア開発につながります。

そして、オープンというのは、「マナーを持った上で、ポジティブなこともネガティブなことも、言いたいことが言える」ということ。そのためには、発言できる心理的安全性を仕組みで作ることも必要です。

──心理的安全性を仕組みで作るというのは、たとえばどういった取り組みでしょうか?

これは、私が実践してきたことなのですが、週報のテンプレートを作り、成功したこと、課題と解決策、トラブルなどを報告する仕組みは、有効な手段の一つです。

ポイントは、成功したことを最初に書くことです。良いことって、みんな意外と言わないんですが、それもまず報告してもらう。そして、課題やトラブルがあるなら、解決策がなくてもいいから書くことをルールにする。

報告すべきことを定義して、週次や月次で振り返るルーティンを作っていくと、何を書けばいいかが明確になりますし、「言っていいんだ」という安心感が生まれ、自然と心理的安全性が高まります。

人ですから個人差はありますが、仕組みを作ることで、ばらつきを補正できる。こういった取り組みは、GovTech東京にも取り入れたいと考えています。

──仕組みで風土を醸成するということですね。では、めざす組織にするため、どのような人材に参画してほしいと考えているか、教えてください。

できるだけ、いろいろなタイプの人がいた方が良いと考えています。とはいえ、立ち上げ当初は「意志があること」がとくに大切だと思っています。先ほど世界一をめざすと話しましたが、年齢関係なく、そういった野望を持っていてほしい。

そして、自律して動くことができること。そのためには、自分自身をサービスとして定義できるかどうかがポイントです。「自分 アズ・ア・サービス(as a Service)」を定義して、何を提供できるのかを描けるようになってほしいですね。

──ありがとうございます。最後に、GovTech東京に参画したいと考えている方たちに、メッセージをお願いします。

私が大切にしている、「過去の自分に挑戦状を持つ」という言葉があります。今までの自分に挑戦し、勝つということです。

私たちはこれから、東京という先人たちが積み重ねてきた資産を、より良くするための挑戦をします。いまある資産を使うばかりではなく、次世代に新たな資産を残す──そこに挑戦したい方を待っています。


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